カーボンフレームの秘密

この記事は約 5 分くらいで読めます

カーボンフレームはその技術フェーズが理解されていない事が多いので、なぜ高いのか、なぜ安いのかが見えにくい製品です。

どちらかと言うと、価格設定からその技術的・素材的価値を広告されているケースが多く、それがユーザーがする中身への価値判断を混乱させる大きな理由になっていることでしょう。

カーボンフレームには大き分けて幾つかのタイプがあります。
① 自社で型を起こし、完全にゼロから開発することができる
② OEMメーカーに生産させ、設計開発のみを行う
③ OEMメーカーに既に存在している既成型を利用する
④ すでに償却の終わった型を再利用する

これらはキッチリと分けられませんが、代表的にはザッとこんなイメージだと捉えて下さい。カーボンは型に張り込んで加熱整形することはご存じの方も増えていますが、その内情は余り知られていないと思います。

当店でオススメしているマスプロメーカーはメリダですが、これは①にあたります。完全にゼロから開発、試作、生産、塗装、組立、販売まで行います。素材のカーボンシートも糸から編むことができますので、完全自社生産です。

これは大変コストが掛かるのですが、生産をトヨタ式にすることで無駄を省き、効率を向上させ、製品単価を下げることに成功しています。ジャイアントも同様ですが、その2社のみが独力生産が可能です。

トヨタ式生産とは
柱となるのが“7つのムダ”削減、ジャストインタイム、標準作業時間に代表される現場主義、自働化。トヨタ生産方式では、ムダを「付加価値を高めない各種現象や結果」と定義。このムダを無くすことが重要な取り組みとされる。ムダとは、代表的なものとして以下の7つがあり、それを「7つのムダ」と表現している。
 作り過ぎのムダ
 手待ちのムダ
 運搬のムダ
 加工そのもののムダ
 在庫のムダ
 動作のムダ
 不良をつくるムダ

無駄が多ければ、単価は上がる。非常にシンプルです。

②と③のパターンは判別がつきにくいと思います。同一ブランドの中で使い分けをしていることもあり、Aメーカーはどのパターンとはいい切れません。ただ、何れもが独力生産できないので設計開発はすれど生産・塗装や組立は外部委託となるなど、いくつかのパターンを使い分けます。

④に関しては最近リリースされたあるフレームでも見かけました。見た目や設計が古いので分かりやすいものですが、③のパターンと比較して製品単価は更に安くなります。ショップオリジナルや小規模OEMメーカーのオリジナルブランドでは③または④のケースになります。そうでなければ、まともな開発費用をペイしきれません。

開発力の差は先進性の差になり、性能の差になります。ある程度は乗る人によりけり、その差はスポイルされるので、見えにくい部分です。速いか遅いかという性能差に加えて、開発力の差は快適性や乗り味の気持ちよさにも表れるかも知れません。開発力の弱いメーカーやバイクはフィーリングが古臭く、どうにも特別な感覚は得られません。

つまり、カーボンフレームの単価はそのほとんどが素材ではなく、インフラや生産管理、流通コストによります。自転車以外でも同じでしょうか。

ゆえ、高価格=高性能でもなく、高価格=高級素材ということは言えません。しかしながら、低価格の方にも理由はあり、その生産方法は様々あるということです。

”Aメーカーが某国で生産されている”などの噂話のような事にあまり意味が有るとは思えませんが、フレーム(製品)を生産する過程の違いによってその製品の価値理解は変わりますし、価格への価値観も変わるだろうと思います。

「乗るだけなら中身はわからないし、乗って違いが分かるかどうか…」

このように思われるかも知れませんが、組み立てる我々は”帳尻合わせ”に日々苦労しています。組み立てるだけでひと苦労どころか、丸一日以上を掛けるケースも実際にあります。最近も、知人のショップオーナーがとんでもない代物を組み立てていました。でも、安物ではなくいわゆる高級メーカーとして知られるブランドです。普通に乗れるようにするだけで大変な苦労がある事は少なくありません。私が某店に勤めている時には多くのブランドのバイクを組み立てましたが、沢山の苦労をしました。全自転車ブランドの中で片手分くらいのメーカー以外は、従業人100人程度かそれ以下の中小規模企業規模であるのでそれも理由だろうと思います。ゆえ、下手に高い値付けの製品より、OEMメーカーが自分の技術力の範囲で、あるいはそれを発揮して信頼性を高めた、比較的低価格の製品のほうが総合的に評価されたりする逆転現状も起きてきます。

私は「結局は乗るだけの人にはわからないでしょう」ではなく、ユーザー(サイクリスト)自身がその成長に伴って、自分で自分のバイクをメンテナンスしたり、いじったりすることがあると思っています。その際、我々が組み立てるのに苦労するようでは、セルフメンテナンスをすることは絶対にできないでしょう。我々がイージーに感じるのは慣れているからですが、それを理解・会得するまでの時間には差があります。

当店おすすめのメリダはその部分も大変良くできています。

自転車の開発では性能向上も大きな目的の一つですが、メンテナンスし易いフレーム作りであったり、耐久性や信頼性など、あらゆる全方向での性能向上が目的です。

自社あるいは独力生産出来ない場合、それは外部への発注となりますから、生産数量やクオリティ如何が製品単価に対して影響を及ぼします。ゆえ、コストパフォーマンスは下がります。これが高級メーカーの中身であり、高価格になってしまう理由です。

実際に乗ってみて違いはあると思いますが、微小です

掛けたコストを回収できるかどうか…がコストパフォーマンスの要だとすれば、実際のパフォーマンスではなくそちらの方が大事になります。なぜなら、技術的にはほぼ同じようなレベルでの生産ゆえ、一社だけ飛び抜けて良くなる可能性は無いからです。

普通のお店であれば、「メリダが一番いいです、走ります!」というのでしょうけど、余り話を大きくしては行けないと思います。

金属フレームの場合、一人の職人が持つ技術によって製品のパフォーマンスやクオリティに差が出ますし、腕の良い職人を育て続け、キープし続けることが要になります。しかしながら、カーボンフレームの場合にはその生産施設に掛けられるコストによってパフォーマンスもクオリティもよくなります。個が有利なのではなく、システム有利の世界。つまり、大規模こそ正義です。

ゆえ、メリダはコストだけではなく、パフォーマンスでの比較でもトップレベルを保つことが出来、コストを含めた総合評価において現在は1位や2位に並ぶブランドとして評価されていることだと思います。