水分と塩分を適切に摂取しないと急性腎不全になってしまう可能性

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イェール大学のChirag Parikh医師率いる研究チームは2015年にコネチカット州ハートフォードで開催されたマラソン大会に参加した平均年齢44歳の22名のマラソンランナー(男性は9名)から血液と尿を採取して分析した。82%のランナーがAKIN基準でステージ1及び2の急性腎不全に相当する高いクレアチニン値の上昇を示し、73%が顕微鏡的に急性尿細管障害と診断されたそうです。

マラソンでランナーの腎臓が壊される(ニューズウィーク日本版)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/post-7292.php

マラソンを走ってるときに起こっているちょっと怖い身体の変化(GIZMODO)
https://www.gizmodo.jp/2017/05/running-a-marathon-puts-your-body-through-hell.html

最近になってランニングを始めた私ですが、サイクリングと比較した場合にそのフィジカル的にきつい運動強度や疲労の蓄積に対しては憂慮していました。また、疲労すると受傷率が上がってしまうという事も考えられ、それが自分自身のシンスプリントにも影響したと思っています。

サイクリングもストイックな世界では”身体に無理をさせるスポーツ”なのですが、ランニングもマラソン競技になるとその性格が強まると思います。

マラソンは2時間半というのはプロの世界であって、一般レベルでは3時間半〜4時間半でしょう。ともすればランニングは競技時間が大変長いと思われますが、サイクリングの方がもっと長い運動時間になりえます。もちろん、強度的には相対的にかなり低くはなりますが、運動時間を倍にした場合にはちょっと話が変わってきます。

上記の研究に対して、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の腎臓科医であるChirag Parikh氏らの研究チームは2017年におそらくは同じレースの参加者に対して調査を行っており、調査対象となった23人のランナーのうち、12人がマラソン後に急性腎不全を発症していました。当初は体温上昇が原因ではないかと思われていたのですが、そうではなく適切な水分と塩分のみ摂取が原因であると結論づけました。

マラソンでは水分と塩分を適切にとらないと急性腎不全になる危険がある(GIGAZINE)
https://gigazine.net/news/20190915-marathoners-fluid-salt/?fbclid=IwAR1QCyf2poDwoJl65YLn6jGSA6B_zXXWWj51rdyaf7Qkv4yUUPxiJMQTXsY

Parikh氏がランナーが失った水分と塩分を調べたところ、ランナーは最大で6.81Lの水分と、7.21gのナトリウムを喪失していました。70kgの体重を持つ人の体内の水分量は平均42リットルで、水分の10%を失うと死の危険があるということを踏まえると、水分を約7リットル失うことがいかに体に負担を与えるかが分かります。

ちなみに、強度の高い運動を高温下で1時間行った場合には1リットルの汗を排出すると言われています。汗に含まれる塩分量は約0.3%ですから、3gの塩分が失われます。一般的に、人の1日の水分出納は約2.5Lです(尿:約1,500ml、不感蒸泄:約900ml、便:約100ml)ので、運動によって失う水分量の多さを実感できますし、腎臓は濾過機能をフル回転させているのだろうと想像できます。

つまり、多くの水分を排出し、体内の水分量が少なくなることで抗利尿ホルモンが強く働き、尿量を減少させます。急性腎不全に陥るケースではこれがゼロになる例もあり、腎臓への血流が滞り、腎臓が炎症を引き起こすと考えられています。

これはマラソンでの話ですが、ボトルを装備しているとは言え、ともに多くの水分と塩分を消耗してしまうサイクリングでも、同様の注意は必要だと思われます。

現在、急性腎不全を予防する特効薬はなく、速やかな輸液などによる脱水の改善などの治療にとどまり、急性腎不全となった場合には救命のための血液透析療法が対症療法として行われています。しかし、血液透析が間に合わずに死亡するケースもあります。


私はもう一つの原因として、横紋筋融解症も考えらると思います。尿が赤褐色になっているかどうかでわかりやすいのですが、上記研究においてはその件について言及されていません。

まあつまり、水分と塩分を充分に摂取し、無理をしないということが対策として決定的に有効なわけですね。

横紋筋融解症は、特に骨格筋に見られ、骨格筋を構成する筋細胞が融解・壊死することで、筋肉痛や脱力を生じる病態です。そのまま放っておくと、起き上がることや歩行が困難になり、腎不全などを合併し、回復に長期間を要すことがあります。骨格筋が融解すると、骨格筋細胞に含まれる様々な物質が血中に大量に放出され、それらの代表としてミオグロビンとクレアチンキナーゼ(CK)が挙げられます。どちらも骨格筋が融解後、血液を介して腎臓に到達すると物理的に尿細管閉塞になり、急性腎不全を来します。ミオグロビンは尿中に排出されると尿が赤褐色を呈し、血尿のような色になります。この特徴的な症状を「ミオグロビン尿症」と呼びます。震災等でのクラッシュ症候群もこの類です。

1981年の論文(10kmのマラソン完走後,急性腎不全となつた若年男子の1症例)には17才の高校3年男子が 10Kmマラソンに参加し、走行中に急性腎不全になった例がありますので、たった10キロであれば水分と塩分現象ではないでしょうから、横紋筋融解が原因だと思われます。


短距離の全力疾走など激しい運動の後に、強い背腰痛を伴って発症する運動後急性腎不全:ALPEがありますが、それはマラソンや自転車では考えられにくいと思われます。


これらの研究によれば、ステージ1の急性腎不全ならばフルマラソンから2-3日で腎機能は回復するとありますので、競技後2-3日は腎臓のケアを忘れずに。

トレーニングの完全休養はもちろんですが、水分の充分な摂取と睡眠時間の確保をし、アルコールや喫煙は止めたほうが良さそうですね。

タンパク質制限も対処としてありますから、レース後にプロテインを過剰摂取する場合には、腎臓へ大きな負担となることが考えられます。ゆえ、レース後にプロテインを過剰摂取し、焼肉食べてビールを飲むなど最悪の対処と言えそうです。


最近ではマラソンやウルトラマラソンやトレイルランニング、あるいは自転車でもロキソニンなどの痛み止めを服用するケースがあるらしいですが、これは上記の危険性をより高める結果となるでしょう。

スタンフォード大学医学部、ワシントン大学ほかいくつかの医学研究者の調査・研究によれば、「ウルトラマラソンレース中に、イブプロフェンなどの痛みを和らげる薬を使用することは急性腎障害のリスクを2倍に増加させる。」とあります。

胃腸のトラブルとか、疲れが抜けないとか、そういう軽い症状ではないということですね。

Pain reliever linked to kidney injury in endurance runners
http://med.stanford.edu/news/all-news/2017/07/pain-reliever-linked-to-kidney-injury-in-endurance-runners.html


実際、私がフルマラソンに参加することを想定すると、給水所での給水だけでは不足することは明らかなので、ランニングベストに少なくとも1リットル程度の水分を背負っていくものと考えています。タイムを目指す場合には考えにくいのでしょうけれど、身体に及ぼす影響を考える場合には4時間以上の高強度の運動であれば2-3リットル程度の汗を失っても仕方ないですから、前日までにローディングをしたとしても給水所のみというのは考えにくいと思います。

ちなみに最新の研究では口渇が発生してからの水分摂取が適切だという方が多いですが、私は変わらずそれでは遅いと思っています。なぜなら、口渇を敏感に感じる人が多くないからで、それを感じるタイミングに対して適切に対処できているとは思えないからです。