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SCULTURAとREACTOを対としてどう語るか
当初はREACTOのリニューアルタイミングが後発であっため、セールス的に当初はSCULTURAが有利だったわけですが、徐々にREACTOがシェアを奪還し、SCULTURAが大きなモデルチェンジを一回スキップした関係上、2021年にはリニューアルされたばかりのREACTOが優勢でやや押し込んでいました。しかし、2022年ついにSCULTURAはついにモデルチェンジをされ、これで世代更新的に対等な戦いが繰り広げられるわけです。
多くのメーカーでは2車種以上あったレース向けロードバイクが片方が削られたり、いつの間にか片方だけの露出が多くなったりしていると思いますが、ご存知でしょうか。しかし、そのような全体的なタイムライン進行の中でなぜメリダは2車種を維持しているのか、選べるようにしているのか、その意味はなんなのか。
SCULTURAは山岳用で、REACTOは平坦用であるという認識や表現はもうすでに古く、メリダの2車種にそれは当てはまりません。ここではこの2車種が存在する理由や、その違いについて書き、恐らくはどのメディアでも書いていないし、書こうともしていない視点で言及していきます。なお、一部のメリダパートナーショップさんはご理解頂いていると思います。
2車種とも残す理由
当初、REACTOのみならず、エアロロードを売り出す際の戦略として、各メーカーはマーケティング面の理由から、空気抵抗軽減による効果とスタイリングの斬新さを打ち出すという選択をしました。エアロホイールを装備した特徴的なその姿は、多くのサイクリストから注目を集めましたし、想いを惹きつけました。その外形的特徴として平たいダウンチューブやシートポスト、大きなBBがあり、それによって従来備えていたロードバイクのバランスが崩れ、いわゆる”エアロロードのネガ”が表出しました。
そのネガは世代交代を減ることで段々と目減りしていき、2021年モデルのREACTO 4では、それらをほとんど感じないレベルにまで進化しました。そのような生まれ方であったため、REACTOをモデルチェンジする際に必要とされる進歩の方向はわかりやすく、また市場にニーズもわかりやすかったので、開発もしやすかったと言えます。また、一旦崩したバランスを修正した結果、結局元に還っていくようなことも、もしかすると”最初から計画されていたのでは?”と思わざるを得ません。
一方、SCULTURAはメリダが初めてリリースしたレース向けロードバイクとして、2012年に発売されました。その当初から軽さと剛性と素早く素直な操作性など、メリダのロードバイクの基本形として表現され、その後も進化を続けてきました。REACTOがモデルチェンジを繰り返す中では、軽さのSCULTURAという方向を堅持し、誰にでも乗りやすく軽いバイクとして認められました。
他メーカーにおいても同様のプレゼンスがあり、役割分担という名目のもと、販売ブランドの拡大をしていく、そんな方向で進んでいったわけですが、2020年くらいからはいくつかのメーカーにおいてエアロロードを撤廃してしまったり、開発が進んでいるように見えなかったり、あるいは世代的に遅れていたりなど、どうしても2つの車種、つまり2つのタイプの自転車を両立させる選択をしないメーカーが現れました。
メリダの場合、第1世代であるREACTOは早く出しすぎていたためセールス的にはほぼ無で、実質的には第2世代が他のメーカーの第1世代と同じタイミングになります。そこでは最初ほどではないけれど、まだネガの目立つ特性であったために、私自身も”重さや硬さ”を感じ、それを表現していたと思います。もちろん、その乗り味が好きだという人はいます。
他メーカーに大きな衝撃をもたらしたのは2018年にデビューした第3世代です。この時から”登れるエアロロード”と言われるようになり、こぎの硬さや重さは一気に目減りし、より広い用途や乗り手にとって使いやすいバイクになったように思います。それに伴い、ジオメトリもSCULTURAに対して寄せることで、使い分けが出来るようにと考えられました。
2021年、ついに第4世代となったREACTOは、さらなる進化を施され、もはやSCULTURAの居場所があるのだろうか?とすら思うほどです。一般的に「SCULTURAは軽さ」という認識があるのでしょうし、他のメーカーでもそういうブランド分けが多いわけですが、もはや絶対的な重量でREACTOを下回るだけではもの足らず、他メーカーと同様に、片方がもう片方を吸収してしまうのではないかとも思われました。私はSCULTURAがこれ以上軽さを求める方向に行かないだろうとわかっていました。それは必要がないからです。合理的ではないからです。重量的な軽さについては、2012年時点のSCULTURAですでに達成されています。それは「特別なパーツを使わなくても6.8kgを下回ることができる」というもので、MERIDAは”それ以上の合理的ではない軽さ”について否定的です。ただ一度、5kg台の完成車を作ったことがありますが、あくまでもあれは亜種であって、一部の市場からの要求でしかなく、R&Dとしてやりたいことではありませんでした。
では、SCULTURAをどの方向へ進化させるのか?これが難しかったと開発者も語っています。SCULTURAらしい軽さを維持しつつ、しかしながらより全方向的な性能を持つカタチにし、それでいてREACTOを脅かさない、その2車種の性能バランスや使い分けにはかなりの苦労があったことだと思います。実際、もっと早い段階でSCULTURAを大きく進歩させることはできたのでしょうが、それでは軽さの追求になり、その系譜が途絶えてしまうかも知れない。ゆえに、2015年にデビューしたあと、2018年にはマイナーチェンジに留め、2021年までほぼ同型で生産されていますから、骨子の部分は7年目のモデルとなっていました。
たしかに片方に絞り、1車種だけで良いとも言えます。その選択をしたメーカーもあるでしょう。2車種を開発するより、一つに絞ったほうが集中してリソースを投入できます。予算を削減することも出来るでしょう。勘違いされる方もいると思うので述べますが、プロ選手によるレースについて言えば、「この機材でないと勝てない」「このバイクだから勝てた」ということはありません。あってもそれはコマーシャルかシミュレーションです。その意味で、実際的なレース成績の為であれば、2車種揃える必要性は薄く、概ねなんでもできそうな車種を一つだけ残せばいいと思います。
メリダなら選べる
しかし、MERIDAは選べるという選択をしました。選手にも”2車種から選べる”という選択を与えています。プロチームでもコンチネンタルでも同じです。2022年からはジオメトリをREACTOとSCULTURAで完全に同じとし、ペダリングやハンドリングの特性などについて好みだけで選べるように作りました。なお、SCULTURAの評価において”よりオールラウンドである”と私が言うのは、SCULTURAのほうがより多くの人にとってペダリングが易しいからであって、「REACTOが一般的に言う”オールラウンド”ではない」とは言っていません。
このように、2車種をかなり高いレベルで、しかも”ミドルグレード”と言われるプライスゾーンに対して、それにそぐわないようなレーシーなフレームを投入することは、マーケットに与えるインパクトはとても大きくなることでしょう。さらにメリダは、非レース系ロードバイクであるSCULTURA ENDURANCEとSILEXを加えることによりロードバイクジャンル全体を幅広く網羅し、各々が合理的で上質な性能を発揮できるまとまったバイクになっていることはまた、”メリダからロードバイクを選ぶ楽しさ”を象徴するものだと思います。
はい、実はこの選べるということが大事だとし、複数の車種をちゃんと進化させたメーカーがメリダです。他メーカーの多くは、片方しか売れていない場合が多くなっています。プロ選手がレースで使用しているバイクを見ても同様であり、そこは市場とシンクロしています。無論、この後にMERIDAでも1車種にまとまったり、ラインナップが削減される可能性は否定できませんが、今現在のメリダはユーザーが様々な走り方や楽しみ方に応じて選べるということを大事にした結果と言えます。