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目次
SILEXはどういうバイク?
まずSILEXがどういうバイクなのかを説明します。SILEXは2018年にデビューした、MTBとロードバイクをかけ合わせるという、他にないコンセプトから生まれたロードバイクです。ロードバイクでありながら、オンロードとオフロードの比率を50:50に楽しめるように設計されました。オンロードツーリング、林道ツーリング、グラベルエンジョイライドからバイクパッキングライドまで、そのすべてを楽しめるように設計されました。悪く言えばどっちつかずでも、一台で何でもできるというかつてないコンセプトを最初は受け入れ難かった市場でしたが、そのユニークな存在は徐々にメリダにとっても欠かせないものになっていきました。
つまりまとめれば、
SILEXは
- 50-100キロ程度のロードサイクリング、あるいはロングツーリング
- グラベルツーリング
- あまり傾斜のない場所でのシングルトラックライド
- バイクパッキングでのキャンプツーリング
- 輪行旅
これらが全部できてしまう。むろん、無理をすればできるという人もいるでしょうが、SILEXの魅力はこれらを結構しっかり楽しめるところです
スペックや設計については10月にアップした記事を参照
実際に販売する完成車のスペック、価格などは、もう2ヶ月も前にアップしていますw
こんな早く、こんなに詳しく、日本語で情報を出しているのはぼくだけだと思いますが、みなさん読んでくださいねw。その際にはある程度の推測や察しも含めていますが、それほど間違っていなかったですね。
新型がデビューWIN!
じつは今回発表された新しいSILEXは、先日行われましたUCI グラベル世界選手権において、バーレーン・ヴィクトリアスのマテイ・モホリッチ選手が使っていたバイクなのです。そう、いきなりのデビューウインどどころか、デビュー前に世界チャンピオンを獲得してしまいました。
もちろん、ぼくらはあたらしいSILEXでレースをするわけではないでしょうが、新しいバイクのもつポテンシャルが最大に発揮されたことは確かだと思います。モホリッチはツール・ド・フランスで3度の勝利を上げるほどとても速い選手ですが、それを支えたのはあたらしいSILEXということになるのは確かでしょう。
レースバイクではない(ここがたいへんに重要)
まさにサプライズ以外のなにものでもない、そんな勝利でした。しかもアルカンシェル(世界チャンピオンだけが着用を許される虹色のジャージ)までも獲得するなんて、ほんとうに驚きました。ただし、実はここは今回のSILEXにおいてもっとも大切なポイントなので、よく知っておいてほしいんですが、メリダとしてはレースに勝つためにバイクを作ったわけではありませんでした。あくまで初代SILEXのコンセプトのすべてを受け継いだ上でアップデートを行った結果の製品であり、初代SILEXの説明を前述した通りであり、何でもできる楽しいバイクを作ったら、結果的に速く走ることもできたというものなのです。
「メリダとしては優勝しようと思って出場したわけではなく、出場したらたまたま優勝してしまった。レースをしたら勝てるということが結果により証明されたけれど、キャンプをしたり、グラベルを楽しく走れるバイクである」
ということです。
まあそれもすべて計画されており、演出の一部であり、最初から勝つつもりだったのだろうと邪推することも可能ですが、メリダを10年以上に渡って取り扱いつつ、ヨーロッパや台湾にも渡航して現場を見て、現地の人と交流し、対話してきたぼくの立場から言えるのは、SILEXをレースバイクとして、レースに勝つために開発することなどありえないということですね。それなら、別のバイクを開発するでしょう。ですから、彼らが勝つつもりではなかったのはその通りなのだと思います。
モホリッチ本人のレースレビューとバイクの印象について
10月中旬、イタリアから北北西へ300km離れたトスカーナ地方のレッジョ・エミリアで、新しいSILEXのプレス向けローンチイベントが開催されました。そのイベントはUCIグラベル世界選手権の3日後でした。3日前にモホリッチが獲得したアルカンシェルと実際に使ったSILEXの実車、そしてモホリッチ本人も急遽駆けつけて行われました。
あたらしいそのバイクについてのプレゼンテーションがあったことはもちろんですが、そこではモホリッチに数日前のレースの中での様子を聞いたり、あるいはあたらしいバイクがジュニアとU23ロードでの世界選手権優勝以来、10数年ぶりのアルカンシェル獲得にどう関わったのかが語られました。
ここではそのインタビューの内容を文字起こしを基本とする形で紹介します。
メリダ「まずは優勝おめでとう。ぼくらもまさか勝つとは思っていなかったので、本当にびっくりしています。しかし、優勝してしまったのだから、そのレースについて聞かざるを得ないわけだけどw、昨日のレースでどうだったのか、何があったのか、バイクはどうだったのかを聞いてみたいんだけど、どうかな?」
モホリッチ「まず、昨シーズンはチームの状態がとても良かった。勝利の数も多かったことからわかると思うし、選手たちみんながいい調子だった。ぼくも含めて大きな怪我やトラブルに悩まされることなかったし、シーズンを通していい戦いができたと思う。シーズン当初からグラベル世界選手権に出場することは決まっていたのだけど、絶対に出るということではなく、シーズンを戦った最後に、調子がよかったら出てみても良いよみたいな感じだったんだ。先程話した通り調子は良かったし、シーズンの一部として意識していたのではなく、あくまでご褒美として楽しんで走るということを目的に出場したんだ。ところが、結果的にぼくは今アルカンシェルとともにここにいるのだから、こんな嬉しいことはないよね。
ぼくはフランドルやパリルーベで勝てるような選手じゃないというのは、もちろんわかっていると思う。だから、最初から勝つつもりはなかったよ。ところが、レースが始まるとけっこうペースが速くて、フランドルでは平均心拍が140くらいで進むのに、今回は160を越えていたw。そのとき、周囲を見渡してみたんだ。すると、周りはぼく以上に辛そうだったし、自分が有利な状況にあることを知ったんだ。「これはもしかすると、個人タイムトライアルのようなことができるかも知れないぞ?」と思ったんだ。新しいSILEXのフレームはレースの3日前に受け取ったばかりだった。そこから、自分が普段使っているパーツでメカニックが組み上げてくれて、レース当日、会場に入ってから50キロくらい試走をしてみただけだったから、ポジションも出ていなかった。グラベル用のセッティングというわけではなく、普段乗っているロードバイクのようにしたのだけど、ハンドルはいつもより高い位置にあった。勝つつもりで準備していなかったと言った通りで、楽しく走れればいいと思っていたんだ。
すごくラクに走ることができたと思う。子供のころ、中学生の頃だったけれど、MTBに乗って走ることを楽しんでいたんだ。その後、友人で幼馴染の自転車仲間ががロードバイクでレースに出るということを聞き出場してみることにした。すると、ぼくはぼくが強くていい選手であること、その時自覚したんだ。そうして、いまの自分の居場所を見つけることができた。
今回、新しいSILEXで楽しく走ることができた結果、もちろん、ぼく自身の調子が良かったことも理由だけれど、今回のコースは下りがけっこうがれていて激しかった。だから、周りの選手たりは強度の高さに加えて、コースとも戦っているように見えた。一部の選手はシクロクロスレースバイクに乗っていたんだけど、彼らはどんどん転倒したりし、レースから脱落していった。それと比較してぼくは明らかにラクに安定して下りを走ることができた。それは勝因の一つだと思う。アップライトなポジションは結果的には良かったと言えると思うし、素晴らしく、また楽しい走りができるバイクだと思ったよ。」
来年も出場予定
結果的にジュニアやアンダー23世界選手権以来の、10数年ぶりの世界チャンピオンを獲得したモホリッチは来年のグラベル世界選手権にも出場することになります。今回はロードバイクの装備、つまりデュラエース Di2を使用しましたが、来年はコンポや他のパーツも含めてグラベルロードレースに特化したアレンジを加え、彼自身もディフェンディングチャンピオンとして準備をして臨むことになるということです。
広がるグラベルロードバイクの世界
現在、ヨーロッパでもっとも大きな自転車マーケットがドイツであるように、グラベルでもドイツがもっとも盛んであるようです。ドイツ以外にオランダ、スイス、フランスなどドイツの周辺国が盛り上がっているという話です。今回のイタリアでの試乗会にも、ドイツ以外にオランダ、イタリア、イギリス、ハンガリー、ルーマニア、チェコというところですが、スペインとフランスに対しては今回とは別に開催するのだと聞いています。
グラベルロードレースではサスペンションフォークが登場しているけれど、モホリッチについて言えば、彼が今のようなコースでサスペンションフォークを利用することはないということでした。あたらしいSILEXはグラベルロードバイク用のサスペンションフォークへ換装できるように設計されているので、乗る人や走る場所や目的に応じて選択することが望ましいと思います。選択肢を持つことができるのはよいことですね。
オールジャンル
グラベルロードバイクをドイツやオランダで買って走るのは、どのような人かということについてお話します。これはオールジャンルだということです。1つはロードバイクに乗っている人がグラベルロードバイクを買います。多くの人が同じだと思いますが、ロードバイクを一定期間乗り続けていくと段々とマンネリズムに陥ったり、自分のフィジカル的な限界も知ることになりますし、自分の周りにある道を走り尽くしてしまい飽きてしまったりもします。もちろん、同じ道を走っても楽しいということはありますが、子供の頃の気持ちに戻って楽しむという意味では、はじめての道を走ったり、そこでさまざまな出会いをするという機会が減ってしまうのは確かだと思います。ところが、これまで走ってきたところから脇道を見ると新しい世界が広がっています。まずは、そこに飛び込んで楽しんでみようと思う人びとです。
もう半分はマウンテンバイクから入ってくる人だそうです。欧州においてのMTBでも、自分が自由にあらゆるトレイルを発見し、そこを走っても良いという状態を、政治的に正しくアピールすることはたいへん難しい状況になっています。これは日本と同じですね。走っていると、ハイカーとの間で問題が発生することもありますし、さまざまな問題が発生することがあります。実際に発生したケースであれば、より心配やストレスになってしまいますし、実際にそういうケースに出会うことがなくても、なんとなく億劫になってしまうのは、たいへんよく理解できるところでしょう。
これもまた日本と同様なのですが、ヨーロッパでも自転車や自動車で走っても良いと法的に担保された林道が多く存在します。ところが、MTBでそこを走ると簡単すぎてしまうから面白くありません。フラットダートでカーブがあったり、上り下りしているだけなので、その程度の道をMTBで走る場合には、舗装路を走る場合と同じくらいの緊張感しかなく、面白くないのは理解しやすいでしょう。MTBなら気にすることもないようなちょっとした石や岩、あるいは排水のための水切りや自然にできた轍がある。そこをグラベルロードバイクで走ると、自分でバイクをコントロールする必要があったり、あるいは自分の走りを追求できたりと、とても楽しい。そして、新しい発見があるからそれがうけているということです。その際、ルールに則って楽しむことができるので、問題も発生しにくいので、MTBを継続して楽しみつつも、グラベルロードバイクも楽しむという人が増えたそうです。
さらに、通学や通勤でグラベルロードバイクを買うという人も増えているそうです。ヨーロッパではサイクリングロードがすっかり整備されており、そこを走ることもできるけれど、グラベルロードバイクにすることで安心して走るための道を増やしたりすることもできますし、太いタイヤの恩恵や取り付けられる装備も多くなります。ロードバイクより便利で安全で安心ということで、親が買い与える場合にもレース用よりも買われることが増えているということです。その道具を手に入れたことで、走りに行く場所が舗装路の峠だけではなく、林道にまで広がっていったのでしょう。
見よ、そこに脇道があるではないか
それぞれの国や地域で状況は異なるのですが、そういった環境を利用し、自転車で走ることを楽しむという意味では、日本でも同じ状況は生まれているだろうと思いました。もちろん、先程書いたように環境はことなります。「そんな道はない」「グラベルがどこにあるの?」という人もいます。ぼくもかつて言ったことがあります。しかし、今では考えを改めています。乗り物と道路の関係はお互いにあってこそだと思います。乗り物が決まると、自然にその人の行動範囲やルートが決まってしまう、絞られてしまう。また、楽しみ方も限定される。そこへちょっと別の視点を取り入れるには、別の乗り物にまず乗ってみるのは大切なことだと思います。これはEバイクでも同じでしょう。新しい楽しみや発見をし、自分の周囲を観察して楽しむという人間の純粋なよろこびが、グラベルロードバイクにより広がるのでしょう。
何でもちょっとずつできて、なおかつおもしろいバイク
グラベルロードバイクという言葉やジャンルが発生して数年が経過しました。今回もっとも驚いたことは、ロードバイクやMTBの進化を下地にして、グラベルロードバイクがここまで進化したのかということです。ほんとうにびっくりしました。ひと昔前の製品もいまだに販売されています。ロードバイクに相対して、主体にして、ただタイヤクリアランスが広がっただけ、あるいはちょっとアップライトな姿勢に対応しただけという、わかりやすいあとづけ感のある車種と比較して、今回フルモデルチェンジしたSILEXは、「何でもちょっとずつできるバイク」から、「何でもけっこうちゃんとできて、なおかつ面白いバイク」にジャンプアップしています。
正常進化上にある劇的変化
メリダはモデルチェンジサイクルが比較的長いメーカーです。毎回驚かされるのは、間隔が4年のうちの直前1-2年で開発をしているはずなのに、その間にリリースされる別のバイクにおいて進化した要素がどんどん取り込まれていくことです。だから、本当に4年分の進化をしてきます。これはふつうにできるメーカーは以外にというか、なかなかありません。それはメジャーメーカーで、なおかつ総合メーカーだからこそできることです。ロードバイクだけを作っているところからは生まれないアイデアやノウハウがたくさんあることを想像するのは、難しくないでしょう。ですから、グラベル世界選手権での優勝はモホリッチ選手自身の功績であり努力の結果であるとはいえ、その仕事を支えた道具である新型SILEXというのは、まさにメリダの自転車を設計・生産する技術の総合力の結果といっても過言ではないと思います。また、世界選手権で優勝できたフレームとまったく同じフレームを利用した完成車が、30万円台から購入でききるというのは、なかなかすごいことだと思います。
スタイリングの改善
今回のSILEXを開発するにあたっては、前作にあったスタイリングへの不満を解消することが目標の1つにあったそうです。これは日本国内だけではなく、世界中で同じだったそうです。実際の乗って楽しんでみると楽しいのがSILEXでした。フロントフォークは、MTB用リジッドフォークのようありながら、独特のソフトにフレックスする扱いやすいもので、なおかつ路面へのトレース性能も高かったですし、荷物を積載しても安定してしました。また、舗装路を走っても軽快でした。それらの性能や特徴を引き継ぎつつ、更にアップデートを行い、その上で現在のSCULTURAで好評なかっこいいと言っていただけるバイクを作るにはどうすればいいのかということが大きなテーマの1つでした。結果的にあたらしいSILEXをかっこいいと言っていただける人は増えているので、スタイリングの刷新という点ではほぼ成功だと言えるでしょう。
メリダだからこそ開発できたバイク
グラベルロードバイクというジャンルが登場した当初は、いろいろな製品が市場に登場しました。今でも多くの製品タイプが混在していますが、それも徐々に整理されつつあります。今回のSILEXのアップデートは、盛り上がりをみせるグラベルロードバイクジャンルの中では、かなりの出色の完成度であると思いました。そもそもは初代SILEXがなければ今回のバイクはなかったわけですが、それを作り上げたのは、MTBでの豊富な経験、そして、ジャンルを問わず自転車に乗ること、遊ぶことが大好きなメリダの開発陣があってのことです。いろいろな製品をみてみますと、ロードバイクメーカーが開発するグラベルロードはロードバイクらしく、MTBメーカーのそれはまたMTBらしいというか、両側に振れている特徴が製品からみられます。逆に新興メーカーやマイナーメーカーの場合には、不足している開発力を目新しさで埋めるような努力がみられます。メリダは総合的でなおかつ世界で2番目に大きなメーカーとしての力をすべて投入しつつ、ドイツテイストの遊び要素を取り入れた、すばらしいグラベルロードバイクを開発したものだと思いました。
これ一台で済ますことができるし、楽しい
あたらしいSILEXは舗装路も、未舗装路も走れるポテンシャルを持っています。実際の使い道を考えてみますと、楽しく走れることが大切になってきます。ロードバイクがなぜ売れるとかいえば、自宅の周りに舗装路が広がっており、そこを楽しく走れるからです。楽しく走るには、ある程度ラクでないと成立しません。モホリッチの勝利は、彼の少年期に培った自転車で走る楽しさを、いま一度味わえたからこそ挙げられたものだとも言えるでしょう。
SILEXは舗装路も、未舗装路も楽しく走ることができますし、シクロクロスであれば以前のぼく程度の実力(CM1の真ん中くらい)ならぜんぜん使えます。その上でシングルトラックのような完全なオフロードも楽しむことができますし、MTBでするようなバイクパッキングで荷物をフル搭載しても安定して走ることができます。初代SILEXから始まり、それを受け継いだそれらのコンセプトに、さらに「走りの楽しさ」が加わったことは、今回の試乗によってぼくは思い知ることになりました。
次回、試乗インプレを含めた後編へ続く…
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