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はじめに
いつもお騒がせしております。今回はグラベルロードを選ぶ際のポイントについて思いつくものを書き留めておこうと思いました。バイヤーズガイドになるつもりはなく、そんな予定もありません。いくつか説明になる”わかりやすい”テキストのあとで、各メーカーのおすすめ車種が掲載されるものは、無責任にいくらでも掲載されます。そんなものにするつもりはありません。いうならば、そういった数多くある車種の中でどういうものを買うべきで、反対に買うべきでないものはどういうものなのか察することができるようになると、SILEXの良さが変わって頂けるというわけですw
しかし、今回のテキストを読んだだけではわからないとは思いますが、少なくとも疑問は感じるようにしました。ロードバイクではないなにかを買って街乗りする程度ではなく、ちゃんとグラベルロードを選びたい場合には、ロードバイクを選ぶように”見た目で買ってはいけない”ということが伝われば、まずは良いと思っています。例えば工具では、どのメーカーがどのような工具を得意とするかが決まっています。ハサミ系ならKNIPEX、ラチェットならSnap-onという感じです。総合工具メーカーでは、不得意な部分はOEMで出したりしています。すべてのジャンルに注力するのは無理なのですね。これは自転車でも同じです。
複雑なことなので、そんなかんたんに分かるようにはなっていません。複雑なことを短く伝えようとすると、わかって頂けないか、あるいは誤解だらけになって勘違いされてしまいます。シンプルに短時間に売上を上げれば良いと思うなら、誤解させて買わせてしまえば良いのですが、ぼくはしっかり選んでほしいので、むしろ読んでいただくと、不安になるかもしれません。疑問を解決した先に納得があるので、産みの苦しみということでしょう。
まあ最終的には、「メリダを買えばいいのだよ」ということになるわけですがw、なぜそうなるのかを書いていきます。「買ってはいけない」という煽り本がありましたが、あんな風に名指しするつもりはありませんが、「グラベルを楽しく走れるグラベルロード」を買うのには、知っておくべきことがあるということです。
グラベルロードの定義
しっかり定義づけがあるわけではありませんが、なんとなく35C〜45Cくらいのタイヤが入るもの全般をそう呼んでいる傾向があります。gravelは英語で、名詞では小石を指します。動詞としては悩ます、苛立てるという意味に使われ、不快にさせるというような意味で使われます。あるいは砂利を敷く。ただ、自転車におけるグラベルはモータースポーツでのそれからきており、未舗装路状態の全般を指します。
グラベルロードバイクは、「舗装路専用ではないロードバイク」のことであり、非常に幅広くつかわれます。ここでは未舗装路をどのように走るかは定義づけされませんから、グラベルで行うレースバイクから、キャンプツーリングをするためのバイクから、通勤通学や移動に使うための便利なロードバイクまで多岐にわたり、それ全体をグラベルロードということになっていると思います。
グラベルロードとロードバイクの違い
未舗装路系の自転車ではグラベルロード以外に、マウンテンバイクやシクロクロスもあります。これらのジャンルとロードバイクとの大きな違いの1つは、前者には標準形が決まっていないことです。ロードバイクのようにシルエットにしてしまうと見分けがつかないバイクは少なく、マウンテンバイクではリジッド(フロントフォークだけサスペンションがついたもの)か、フルサスペンションバイクかを選ぶこともでき、サスペンションのストロークも選ぶことができます。また、タイヤの太さも種類も個性を発揮できるポイントなので、1台1台が全て違うバイクになります。シクロクロスもマウンテンバイクほどではありませんが、たいへん個性的です。これらはロードバイクとはまったく異なりますね。
走るコースや地形もかなり大幅に違いの出る部分です。春のクラシックのような変わった環境で行われるロードレースもありますが、あくまでイレギュラーですし、土地を造成したりはしません。あくまで既存の道路を使うことが基本です。それと比較して、マウンテンバイクやシクロクロスは人工的に造成されたコースで行われることが多く、その程度や難易度は造り手の自由に任されています。ですから、バイク側の個性の幅の広さが必要なのであり、タイヤやサスペンションへのセッティングを含めて振り幅が広くできるようになっています。
ジオメトリが大きく違う
グラベルというアイコンが貼ってあったり、タイヤの太さを観察すると太かったりすれば、「これはグラベルロードなんだな」と理解されると思います。しかし、ジオメトリまで見る人は少ない。ロードバイクも同じです。ロードバイクではサイズを選ぶためにジオメトリ表をみることはありますが、車種を選ぶために見る人は決して多くはないでしょう。細かくジオメトリを見て車種を選ぶ人もわずかながらいますし、そうすることもできますが、ロードバイクでは走る環境に振り幅がないので、そんなことをしなくても概ね失敗しないようになっているといえます。
そこが大きな違いです。
例えば、メリダの新しいSILEXと、あるメーカーのグラベルレース用車種とグラベルアドベンチャー用車種を比較した表を作ってみました。比較するため、メリダとA社のエアロロードのジオメトリを記載してみました。なお、サイズは170センチ前後の方が乗るように選択しています。現在のメリダではREACTOとSCULTURAはほとんど同じジオメトリにしているため、REACTOですが、SCULTURAでも比較は可能です。
MERIDA SILEX MERIDA REACTO MERIDA
SCULTURA ENDURANCEA社 グラベル
レースバイクA社 グラベル
アドベンチャーバイクA社
エアロロードバイクSANTA CRUZ STIGMATA
シートチューブ長 470 500 470 470 470 455 485
トップチューブ長 565 535 524 522 530 526 570
チェーンステイ長 430 408 418 425 435 405 423
ヘッド角 69.5 72.5 71 71 70.8 72 69.5
シート角 74.5 74 74 74.5 74.5 74 74
BB下がり 75 70 66 74 75 68 78
ヘッドチューブ長 150 112 152 115 115 117 120
リーチ 402 384 366 373 379 378 405
スタック 588 529 552 537 546 516 576
ホイールベース 1065 983 997 1001 1024 975 1063
どこから書くべきは迷うところですが、まずはMERIDAとA社ではジオメトリの使い分けが違うことがわかります。メリダははっきりと使い分けているのに対して、A社ではロードバイクをベースにしたところからあまり離れることができていないのがわかります。A社の場合、グラベル用としているジオメトリは、メリダのSCULTURA ENDURANCEに近いものです。BB下がりは大きく確保しているものの、リーチやヘッド角など、バイクの操作性に関わる要素がよく似ています。SILEXの特徴は明確で、長いヘッドチューブにより乗車姿勢に大きな余裕を確保しつつ、トップチューブをMTB並み(なお、BIG.NINEは430程度)に長くすることでリーチを確保。その分ステムは短めにしてハンドリングがダルすぎないようにしています。
どうでしょうか。A社に関しては、エアロロードとグラベルレースバイクがほとんど変わりませんね。チェーンステイが伸びた分だけホイールベースは伸び、BBは下げている、しかしそれだけに見えます。ジオメトリ以外について比較しても、A社のグラベルレースバイクはなんとシングル専用なのに対して、メリダでのグラベルロードバイクでは、レース用がダブル、それ以外ではシングルも選択可として考えています。ある限られた速度域と環境、例えばマウンテンバイクやシクロクロスのようなコースであれば、フロントシングルでも構わない気がしますが、グラベルロードレースのコースは決まった形になっていません。そのような状況においては、幅広い速度域において使いやすくなるようにメリダでは考えたということです。
とにかく、SILEXのホイールベースの圧倒的な長さが目立ちますね。A社のグラベルアドベンチャーバイクと比較しても、4センチも違います。4センチですよ。4ミリではありません。
なお、ぼくが悪い例としてA社だけをピックアップしたように感じるかもしれませんが、グラベルロードバイクの中ではすでに販売実績がけっこうあるB社関しても、A社のグラベルアドベンチャーバイクとほとんど変わりがありません。むしろ、BBは3ミリ高く、リーチは11ミリ短いもので、バイクパッキングをして楽しむのであれば、SILEXの方が安定した走行ができそうに思います。
なお、一番右にSANTA CRUZのグラベルロードである「STIGMATA」のジオメトリを載せておきました。
どうでしょう?SILEXとそっくりではありませんか?ヘッドチューブが短いことを除いては、かなりよく似た設計思想であることが読み取れます。2社ともに、優れたMTBフレームを設計することで知られていますから、やはり未舗装路において楽しく自転車を走らせるために必要な要素がわかっているのだとわかります。A社は本国ではMTBもリリースしてはいるのですが、ちゃんと設計して売っていないので、このようなことになっているのだと思います。ただ、フレームのみで40−50万円ほどしてしまうので、買える人はかなり限られます。それに対して、SILEX 400は25万円未満、SILEX 4000は40万円未満で購入できてしまう。これがメリダの良さなのです。
ロードバイクより奥が深いグラベルロードの世界
ややこしいことはすべて言わず、抜きにして、端的に「グラベルロードはロードレース用バイクよりイージーなので買っていいですよ」とわかりやすく言うことはいくらでも可能です。眼の前のセールスだけをみるのであればそれで良いのでしょう。しかし、最初に書いたとおりで、しっかりバイク選びを考えたい場合には、ジオメトリについて、そのメーカーの得意不得意について、考えてみることをおすすめしつつ、メリダのSILEXに乗って、他のメーカーのグラベルロードバイクと比較してみてください。
もちろん、「みんな違ってみんないい」とすべてを肯定することは大前提として言うのですが、その上でどれがどのように違い、乗り手である自分がどれを選ぶほうがハッピーにライドできそうかということは、知った上で選ぶこともできると思います。
なお、今回はあくまでジオメトリという数値にフォーカスしていますが、数値が同じなら同じ自転車になるというわけではありません。ジオメトリをコピーすれば良いというわけではなく、すべてはバランスなのです。MTBで良いバイクを作ることができるメーカーが限られるのは、実際にテストが不足しているからでしょうし、ロードバイクのように儲からないからということもあると思います。グラベルロードは、メーカーから見た場合、ロードバイクのように儲けることができるジャンルであるのですが、決まった形がなく、ノウハウを持っていないのでは?というメーカーもあるので、買う側はしっかり考えてみたほうが良いのではないかと思って今回のテキストをまとめてみました。
ぼくは当初、グラベルロードに否定的でした。しかし、今ではグラベルロードの開拓や展開というのは、この数十年にサイクリングに起きる最高の現象の中で、もっとも良いことだと思っています。これはより良いグラベルバイクの出現が理由です。やはりふつうの人間は、目の前で見て、実際に体感していないことまで想像できないということです。
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